先日のカンボジア代表の試合では確かに5万人収容のオリンピックスタジアムがほぼ満席になり、カンボジアのサッカー業界がにわかに盛り上がりを見せているという記事がここ最近目に付くようになった。結論から言ってその論調は間違ってはいないが、あくまでも以前と比べた話である事を認識しなければならない。国内トップリーグは依然として問題が多い。
カンボジアサッカー協会主催の国内トップリーグ「メットフォンカンボジアリーグ(Cリーグ)」が7月に開幕した。今年は遂にホームアンドアウェーを本格導入し、ホームスタジアムを持つチームは各ホームに相手を招いて試合を行っている。しかし、ホームスタジアムを持つのは12チーム中僅か4チーム。今年は予定のずれ込みから変則的な日程設定となり、週に2試合、中2日の場合もある。当然、選手の心身ともに負担が大きく、リーグ開始1ヶ月足らずで大怪我をした選手もいる。
また、ホームを持つチームの体制も不十分だ。ホームを持つスバイリエンは収容しきれない観客がピッチサイドに溢れ、サイド看板にもたれて観戦するという広告主が見たら卒倒しそうな状況となっており、早急な対応が必要だ。しかしそのようなホームを持つトップチーム以外の試合は、スタンドの一部を選手の家族や数十人の特定のファンが埋めている程度なのだ。
散々たる環境の国内トップリーグだが、情熱と潤沢な資金力を兼ね揃えた一部のトップチームは既に先を見据えて大規模投資を始めている。プノンペンクラウンは、U14世代から組織されるアカデミー用に世界レベルのスタジアムを約2億円かけて建設し、人員面でもスイス人監督の下に選手・スタッフとも多国籍専門家を擁している。結果、同チームは国際試合経験も豊富で好成績を収め、簡単には勝てないチームとして東南アジアでは名が通っている。また、スバイリエンはテレビ局や新聞社を系列グループに持ち、メディア戦略として先行投資戦略を取っている。テレビはCリーグ全体の放映権を取得し、全日程完全生中継を実施。週1回のサッカー特集番組でCリーグの認知度向上に大きく貢献している。新聞では、スバイリエンの全試合を取材して試合翌日のスポーツ面にて写真付きで特集し、メディアの力を最大限に利用している。
このようなチームの投資は何故このタイミングなのか、彼らは口をそろえて言う。「今私達が投資をしなければ、この国のサッカーは今後もずっと弱小国のままだろう。私達には今やる力(資金力と情熱)があり、この国のサッカーを発展させられると信じている」。頼もしさだけでなく、サッカーの持つ経済力を理解し、そこに投資できる資金力があるなら今のうちにやろうと思うのは当然だ。投資の回収がいつになるか先は不透明だが、それを考えるのは今ではない。今後この動きが中堅チームにも広まれば環境は良くなり、盛り上がりは更に大きくなるだろう。潤沢な資金力によるブランディングがチームの知名度を高め、高額年俸が選手に自信とプライドを与える。またファンは選手に憧れ、サッカー選手という職業に価値が付くようになる。
大切な時期だけに日本人は関わるならば慎重な判断が必要
カンボジアサッカー界の更なる盛り上がりを予想し、何らかの形で関わろうとする日本人は増えるだろうが、まずその為に何ができるのか自問してみてほしい。トップチームの膨大な投資がある以上、多少の資金だけでは相手にされない。参入後わずかでチームが活動停止するサッカー界に、カンボジア人は価値を見出すだろうか。そして、盛り上がっていると煽るのは簡単だが、それに乗じて利益をかすめ取ろうとする者がいるならば今一度思い直してほしい。この盛り上がりがどこまで大きくなるかは未知数だ。今は己の利益のために動いて自己顕示欲を満たすためにカンボジアのサッカー界を使う時ではない。今後数年間の取り組みが将来のカンボジアサッカー界を大きく左右する事を忘れてはならない。その状況を十分に理解し、この国のサッカー界に本当に貢献して共に発展を遂げるという気概のある人々や団体が今後多く現れる事に期待したい。