任期満了に伴う5年に一度の総選挙(国民議会議員選挙)の投開票が7月29日に行われた。当日の夜には選挙管理委員会から暫定結果が発表され、人民党が定数125議席のほとんどを獲得する見込みとなった。
強い人民党批判の中で、多党制の維持と得票率が焦点に。
今回の総選挙では「多党制の維持」と「投票率」のふたつが焦点とされていた。昨年、最大野党救国党が法の力によって解党された事で、国民議会は他政党に議席を再分配して多党制を維持したが、欧米のメディアは人民党が独裁体制へ舵を切ったと一斉に反発、批判的な論調を並べた。それから現在までフンセン首相率いる人民党は欧米のメディアからの強い批判にさらされ、多数の政党が選挙に参加し選挙後に多党制を維持できるのか注目されていた。
また、元救国党陣営は投票率そのものを低下させることで支持者の声を結果に反映させることを計画していた。SNSなどで、人民党を除く18の政党の中に救国党に代わる政党は存在せず、選挙に参加しないことのみ意思を示すことができると支持者に訴えた。それらの動きと同時に欧米や選挙支援をおこなっている日本のメディアに積極的に露出し、人民党政権に対して国際社会からの圧力の行使を訴えた。これらの動きが活発化するにつれて人民党と選挙管理員会は選挙不参加へ誘導する動きは法律によって罰せられるとの見解を示し、投票率低下に繋がる動きを警戒していた。
国民の意思が示された80%を超える高い得票率、人民党の独自集計では全議席獲得と発表。
しかし、蓋を開けてみると大方の予想に反し、暫定結果ではあるが得票率は下がるどころか前回総選挙の69.6%を大幅に上回る82.89%を記録し、人民党の得票率も76.78%と、その他の政党を大きく引き離し第1党が確実のものとなった。人民党の独自集計では全125議席を獲得したとも発表されている。正式な選挙結果は8月11日に発表され15日に確定される予定となっているが、大きな数字の変更はないと予想されている。仮に全議席獲得となると焦点とされていた多党制の維持が不可能となる。人民党は欧米をはじめとする国際社会から更に強い批判を受けることが予想されるが、80%を超える投票率が人民党政権の正当性を証明しており、その点をきちんと国際社会に説明し理解を求めることになる。
選挙結果を批判することはカンボジア国民の意思を批判することになる。
今回の選挙に関して欧米と日本を含む多くのメディアは一貫して批判的な論調を崩してはいないが、その論調の後ろには常に中国の存在があった。愛すべきカンボジア国民を中国とその傀儡である人民党政権から救い出す。そのための使命感に燃えていたのかもしれないが、いささか偏見が過ぎるのではないだろうか。彼らの愛して止まないカンボジア国民の多くは、彼らの希望に反して人民党にその意思を投じた。選挙結果を批判することは人民党を批判すること以上に、カンボジア国民一人一人を批判していることにつながっている。
かつてフランス領インドシナと呼ばれた頃からカンボジアは欧米の思惑に左右されており、その結果生まれた悲劇もあった。また、中国の肩を持つつもりは毛頭ないが、中国を悪であると決めつけるのもいかがなものか。カンボジア国民をいつまでも支援の対象と思っていたら足元をすくわれる。多くのカンボジアの国民が選んだ今回の選挙結果を尊重したい。