先の内戦で生じたインフラ、人材、制度の3つの壊滅的破壊から、復興が進み成長期を迎えたカンボジア。現在、更なる経済成長と、国力向上のため政府は農業分野、特にコメの生産から輸出に至る総合的なライスセクターの成長と振興に力を入れている。その実現のため、ライスポリシーが2010年に制定された。フン・セン首相は同政策制定時「コメはほぼ永久に生産し続ける事ができ、需要も永久になくなる事がなく利益を長期的に生み出せる作物」として、その存在を金に例えて「ホワイトゴールド」と呼び、2015年までに輸出100万トンを達成するようにという具体的な数値目標を示した。現政府にとってこの政策は国益の根幹を成す政策であり、フン・セン首相は関係省庁に対して目標達成のために最優先で進めるよう指示した。
カンボジアライスフォーラムの開催、始まりの5年間を振り返って
そのような中で、ライスポリシーの毎年の評価と翌年への方向性決定の指針として行われてきたのがカンボジアライスフォーラムである。2011年から、ライスポリシーの目標達成年である2015年までの5年間行うとして計画されたフォーラムは、カンボジアの中小企業連合会(FSMEC)が主催を務め、今回が最終年となる。開催初年度から日系企業として唯一参加し、関係省庁業界団体とも強い信頼関係を築いてきた日系企業代表者はフォーラムの開催とこれまでの5年間について次のように語る。「この5年間はまさに始まりの5年間と言えます。コメの輸出はただ作って売ればいいという簡単なものではありません。籾の生産の段階から物流、加工、実際の販路開拓、及び金融に至る全てのセクターで、現状も政府と民間業者は多くの課題を抱えています。カンボジアのライスセクターでは主に3つの課題があると言われています。高額な光熱費、高い銀行金利、物流インフラの未整備です。これらがカンボジア産輸出米の価格競争力に影響しています。また、私はこれに加えて技術の不足も挙げたいと思います」
開催初年度、FSMECが主催したフォーラムは年々開催規模が拡大し、今回からカンボジアライスフェデレーション(CRF)が主催する事が発表され、FSMECは主管となった。CRFはカンボジア国内大手財閥SOMAグループのソク・プティプットォ氏が会長を務める団体で、2014年に複数存在していた民間のコメ業界組織が統合されたものである。また、この5年間にカンボジア米が国際コメ品評会で3回優勝した事や、カンボジア政府と関係省庁の活動の甲斐あって業界の新旧の交代が進んだ事、外資の参入が相次いでいる事など、カンボジアのライスセクターは確実に活性化している。
成長の鍵となる中国マーケット
しかし、現実は厳しい。2015年の年間輸出量は54万トンに留まり、100万トン達成には至らなかった。次の5年間でいかにして巻き返しを図るのか、カギとなるのは中国のマーケットだ。中国は年間1億トン以上のコメを生産しているが、環境破壊や生産者の減少により、自給率は年々低下している。今後の輸入需要として年間数百万トンから1,000万トンが予想されている。実際に2015年の中国向けの輸出量20万トンは、カンボジアの総輸出量の約40パーセントに上り、今後も更なる増加が見込まれる。また、中国以外にもフィリピンや、インドネシアなど近隣諸国への輸出量増加も見込まれている。世界的に見てもカンボジアのコメのポテンシャルは十分投資対象として魅力があり、新規参入や外資との合弁も相次いでいる。例を挙げれば、タイ大手CPグループとSOMAグループとの合弁で大型精米所も稼働が始まった。このように、今後も大いに成長が見込まれるセクターである。
その中で日本企業は一部メーカーを除いて、存在感は薄いと言える。今後どのような形で日本企業が同セクターにおける位置づけを確固たるものにしていくべきか。
日本のコメ業界が培ってきた高い技術力に期待
現在の世界のコメの国際取引量は年間約5000万トンに上るが、カンボジアはそのうちのわずか1パーセントに満たない。関係者の今後の期待感は高まってくだろう。
そこで、この成長市場において日本はいかに存在感を増していく事ができるのだろうか。大手商社は既にコメの買い付けを始めており、年間数千トン規模の取引も始めている。ただ、カンボジア側関係者は、日本に対して販路の確保だけを期待している訳ではない。カンボジア側は日本のコメに関する技術・経験・知識こそ今のカンボジアに必要だと考え、課題の解決方法として高い関心を持っている。そして、日本側に目を向けても、直面するTPPの対応策としてグローバルサプライチェーンの構築に興味を持っている。多くの課題があり簡単な話ではないが、日本の農業のカンボジア進出とカンボジアの期待度、双方の釣り合いがとれれば、今後日本がカンボジアのライスセクターで存在感を発揮する事ができるのではないだろうか。