//フンセン首相、日本・メコン地域首脳会議に参加。

フンセン首相、日本・メコン地域首脳会議に参加。

 10月7日からフンセン首相と政府代表団は東京にて開催された第10回日本・メコン地域首脳会議に出席した。首脳会議は議長国の日本とメコン川流域のカンボジア、それからラオス・タイ・ベトナム・ミャンマーの首脳も出席した。

 8日には首脳会議に先立って日本・カンボジアの二国間首脳会議も行われた。会談の冒頭フンセン首相は、総選挙後に発足した新政府に対する安倍首相の祝辞に謝意を伝えたほか、両国関係及び日メコン関係の更なる強化を図りたい旨を述べたほか、日本が進める「自由で開かれたインド太平洋の実現」に向けて日本の取り組みへの支持し示した。安倍首相から日メコン協力の指針に沿った形でのカンボジアの自然条件に対応した農業用灌漑水路の改修に係る協力を行うことを決定した旨が伝えられると、フンセン首相は日メコン協力はASEAN内の先発国と後発国の格差是正をはじめ利益をもたらす取組であると評価した上で、新たな戦略の策定はメコン地域の現在の需要に沿ったものであると述べた。また、安倍首相からカンボジアの政情に関して、日本がカンボジアの民主的発展の道のりをともに歩んできたこと、これからも民主化を進め国の統治を行い、国を豊かにしてほしいとの旨の発言があり、フンセン首相は選挙支援を含む日本の協力に対して謝意を示すとともに、民主的な国の発展を進めていく考えを述べた。
 翌9日から始まった地域首脳会議は、メコン諸国との関係強化及びメコン地域の域内格差是正と持続的発展のために2009年以降毎年開催されているもので、今回は日本とメコン諸国が,更に力強く成長・発展していくことを実現するために、連結性・人・環境の3分野を中心に意見を交換が行われた。持続可能な開発目標(SDGs)の実現に貢献するためのプロジェクトを次回首脳会議で採択することが決められたほか、「東京戦略2018」と銘打った新たな指針を採択。南シナ海での航行や上空飛行の自由の重要性などを確認し、中国による南シナ海の軍事拠点化を念頭に「懸念に留意する」とした。安倍首相は会議後の記者会見で「これまで以上の民間投資が実現するよう政府開発援助(ODA)などの公的資金を活用し、これを呼び水として後押しする」と強調したほか「国際的なスタンダードに適合した質の高いインフランを推進する」と述べた。
 日本はアジア地域で最初に先進国となり、メコン地域の発展にインフラなどのハード面から人材育成に至るソフト面まで大きく貢献してきており、経済的な結びつきは非常に強く、将来的にさらにその繋がりが強まることが期待される。しかし、今後この地域でのプレゼンスを維持するに当たって今後中国の存在を抜きにすることはできない。

一帯一路構想とカンボジア

 実は中国主導で同じようなメコン流域国との首脳会議が毎年行われている。今年プノンペンで開催された中国メコン地域首脳会議は中国から李克強首相も参加したこともあり、地元メディアでは特別大きな扱いを受けた。日本が「自由で開かれたインド太平洋の実現」を掲げる一方で、中国が掲げているのが「一帯一路」構想だ。会議と同時に開催された中国からの投資見本市では中国が国を挙げて進めている高速鉄道輸出のための模型、経済特区の完成予想図、スマートシティ構想の実現に向けたパネル展示などがおこなわれ参加国の首脳が揃って観覧した。2014年に中国の習近平国家主席が提唱した「一帯一路」構想、その中でメコン地域は重要地点に位置付けられ、特にインフラの整備が遅れているカンボジアには陸路では国道各線の整備、海路でもシハヌークビル港の整備をはじめとする様々な分野で有償・無償問わず中国主導の事業が盛んに行われている。
 人口13億人を超える超巨大国家中国にとって成長を続けることこそが国内秩序を維持するために必要不可欠である。自国の成長のために、時に国際社会から見て強引な手法で我が道を突き進んでいるが、そんな時に重要になってくるのが、カンボジアのような中国の恩恵を強く享受している国の存在だ。近年特にカンボジアが親中国として存在感を示した出来事に、中国の東シナ海への進出が挙げられる。当該海域への中国の進出はベトナムやフィリピンなどASEAN加盟国の中にも受け入れ難い国もあり、中国との友好関係を維持したカンボジアによってASEAN外相会議は紛糾、全会一致でなければ声明を採択する事ができないとするASEAN憲章によって過去には共同声明を発表できない事態へと発展した。
 近年カンボジアと中国は、両国が安定した成長を続けるための相互関係が成り立っており、中国政府の経済支援と民間の投資、その両輪が回り続けることでカンボジアが受ける恩恵は計り知れない。

政府間の蜜月とは対照的に芽生え始めた反中国感情

 しかし、蜜月とも思える両国の関係にも不安要素がない訳ではない。それはカンボジア国民の対中国感情の急速な悪化だ。もともとカンボジアと中国の交流の歴史は古く、華僑移民も多く暮らしているカンボジアではルーツを辿ると中国人という国民も多い。しかし、そんな親中国派の国民でさえ、最近になって流入してきた中国人に対しては厳しい声を持ち始めている。古くから商いを営む華僑移民をルーツにもつカンボジア人も「彼らを私たちと一緒にしないで欲しい」と眉をひそめる。もちろん仕事をしに本土から来ている多くの中国人は良識ある人々だと思うが、一部はそうでは無い様で中には秩序を乱す輩もいる。カンボジア人にとって必須となった情報ツールフェイスブックなどのSNSには中国人の起こした事件が連日投稿され、カンボジア人社会に拡散されている。そのほとんどは投稿した本人に直接被害をもたらすものでは無いが、中国人の巻き起こすそこはかとない不安感が、カンボジア人の反中国感情を掻き立てている。

中国を笑えない、問題になっていないだけマシな日本

 中国人への感情の悪化は日本人にとってカンボジアでのプレゼンスをより強固なものにするために良い機会とも思えるが、いざ私たち日本人に目を向けると、中国人とはまた違った理由で目を覆いたくなる様な現実がある。政府はODAを呼び水として民間投資を呼び込みたいとしており、ODA案件の形成に当たっては両国の国益に沿うよう念密に調査が行われ、確実に両国の国益になるよう事業が進められる。しかし、民間がその後を追うと言うのは難しいように感じる。民間投資、特に中小企業の投資は2010年代初頭に盛り上がりを見せたが、すっかり落ち着いている。今思い返してみれば小規模事業者が助成金目当てで一発当たれば御の字という様な事業計画ばかりを立ち上げては助成金の終了とともに撤退繰り返していた。政府の思惑に沿い両国の利益となって残るような事業は皆無と言える。その陰には助成金コンサルタントなどと言う助成金を取得することだけに長けた輩の存在があった事も大きい。彼らの多くは大凡釣り合わない副首相や大臣に近づいて写真をパチリと取ってはSNSで繋がりをアピールし信用を得ると言う「一体何時代だよ」とツッコミを入れたくなる様な輩もいた。コンサルタントがそのレベルでは顧客の事業も頭打ちである。その当時、事業に関わったカンボジア人は日本人に失望し、嫌悪したと思うが、幸いなことに出ていない杭は打たれない。カンボジア人全体の感情を左右するほどではなかった。カンボジアで中国が台頭するにつれて、日本の大手媒体では負け惜しみとも取れる記事が散見された。それは日本の大手媒体に所属する優秀な記者からすれば中国なんかに負けるはずが無いと思うのかもしれない。しかし、実際に日本人の見事なまでの体たらくぶりを見てはカンボジア人が日本の無能さに気が付きませんようにと願うことで精一杯だ。

Small but tough カンボジア人はいずれ正しい選択をする

 日本と中国がそれぞれの問題を抱える中で、恩恵を少しでも多く受けたいカンボジアは両国の良い面そして悪い面を一番よく見ている。フンセン首相は事あるごとに主に欧米に向けてであるが、大国の思惑に我々は翻弄されてきたと述べている。一昔前クルマのキャッチコピーに「Small but tough」と言うコピーがあった。このコピーは様々な歴史を経験したカンボジアにぴったりだと思う。カンボジアは今、他国が舗装した道を走っているかもしれない。しかし近い将来、小さいながらも自分たちの力で道無き道を進んでいくことになる。その時にナビゲーターとして頼りにされるのが日本か、それとも中国か、それは分からない。私たちにできることはカンボジアの決定を尊重することだ。