サムダッチ・フンセン首相が日本を訪問
去る8月6日から9日まで4日間の日程でサムダッチ・フンセン首相が日本を訪問された。フンセン首相の日本訪問は今回で20回を数え、日本ではカンボジア人留学生との交流会や、官民連携のセミナーなどに出席された他、安倍総理とも首脳会談を行った。首脳会談では今後の経済協力について協議が行われ、円借款によるシハヌークビル港新コンテナターミナル整備計画(235億200万円)と、無償資金協力によるプノンペンの洪水対策事業(39億4800万円)への署名が行われた。
また、フンセン首相は首脳会談の場で、日本政府に対して、プノンペン市の高架鉄道計画への支援を要請した。この高架鉄道は渋滞解消等を目的とした新世代の公共交通を実現する為にプノンペン市が計画を進めているもので、プノンペン市内中心部のセントラルマーケット付近とプノンペン空港をつなぐ事が計画されている。試算では開通までに要する総予算が8億ドル(900億円)程度と見込まれており、昨年開通したツバサ橋や事業が続けられているシハヌークビル港整備計画を大きく上回る規模の大規模公共事業に日本政府が関わる事となる。フンセン首相はカンボジアがシーゲーム(東南アジア大会)を開催する2023年までの開通を希望しておりスピード感を持った事業が行われる事が予想されている。要請後、フンセン首相は日本で既に営業しているAGT方式の新交通ゆりかもめを視察、実際に乗車して担当者から直接AGT方式の利点等の説明を受けた。それ以外にも、ゴミ焼却施設など国民生活の質の向上に直接貢献する施設を視察した。訪問中の動向はフンセン首相のFacebookページから随時更新された。その中でも日本政府主催の晩餐会で安倍総理からフンセン首相へ誕生日ケーキが送られたという内容の投稿は特に大きな反響を呼び3万2千いいねを記録した。それ以外の投稿にも数千人を超えるカンボジア国民が反応し関心の高さがうかがえた。
このような前向きな両国間の連携はカンボジア国内のメディアで大きく扱われた。カンボジアでは近年、日本が復興期からリードしてきた支援分野に変わって、中国からの投資が急増している。そのような状況にあって、高架鉄道計画への支援要請は現地紙の一面で扱われるなどカンボジア国民に「日本」の存在を再び深く印象付けた。
報道機関の関心に大きな開き
しかし、カンボジア国内での大々的な扱われ方とは対照的に、日本国内でこのフンセン首相の訪問を大きく扱ったメディアはほとんど無かった。内容も両国間の経済的深まりとは関係なく、日本で連日報道されている北朝鮮問題に絡んだ内容であり「カンボジアのフンセン首相とも北朝鮮への圧力を強め、国際社会で団結し対応する事に一致した」とまるで北朝鮮問題にたまたま訪問していたフンセン首相を担ぎだしたかのような内容だった。カンボジアに居を構え、少なくとも情報を扱う仕事に従事している者として、カンボジアはあくまでもASEANの一国に過ぎず、大きな経済関係も無いと言うのは理解しており、その為に日本のメディアが限りある時間とスペースの中で情報を取捨選択していく過程で、両国である程度扱い方に差が生じる事は理解していた。しかし、今回の訪問は国際会議等での訪問ではなく一対一の実務訪問であったにもかかわらず、ほとんど中身に触れる事の無い報道であり若干の戸惑いを覚えた。だが、戸惑いを覚えつつも客観的に自分の住む国がどのような扱いを受けているのかと言う事が確認出来る良い機会だと捉える事も出来た。
情報を得ずとも問題なく生活が出来、利益を上げる事が出来る
奇しくも日本のメディアが示した通り、カンボジアという国への日本の関心は大きくない。それはカンボジア在住の日本人を見ていても大差ないように感じる。カンボジア国内から発せられる情報に関心を示し、日常的にその情報を得ている日本人が一体どれだけいるだろうか。もちろん仕事上必要な専門的な情報を得ていると言う人はいるが、広い意味で日常の中にカンボジアの情報が入っている人は少ない。無関心でいられる大きな理由、それは情報を得る労力を使ったところで生活に何も変化が現れないからだろう。しかしその労力を惜しむ事がミスマッチな支援、ニーズを把握できていない事業に繋がっている事は確かだ。そして中には正確な情報を得ないまま推測や思い込みでカンボジアは「こうだろう」「こうであってほしい」という持論を展開する者もいる。自己完結してくれていればそれで良いが、中には顧客や周りに得意げに披露し己の利益を得る者もいるから厄介である。
カンボジアで必要とされ続ける為には、先を読む 為に情報を得てそして理解する事が必要
しかし、日々めまぐるしく状況が変化する中で本当にこの国の為になる事業や支援を行い必要とされ続ける為には、正確でタイムリーな情報取得が必須であることに変わりはない。ましてやカンボジアに住む多くの日本人はカンボジア人を部下として雇用する立場にある。日本人を上司に持つカンボジア人の立場に立った時、その日本人があまりにも無知な場合には戸惑うのではないだろうか。今回のフンセン首相の高架鉄道支援要請の様にカンボジアはまだまだ日本を先進性のある学ぶべきところの多い国であると捉え高い関心を示している。日本人もその関心の高さに答え、日々カンボジアから発せられる本当の情報を深く理解しカンボジアのより良い発展に寄与しなければならない。