//カンボジアサッカーの挫折と栄光

カンボジアサッカーの挫折と栄光

このコーナーでは、今までにもカンボジアで今所謂一つのムーブメントとなっているサッカーについて掲載してきた。そのなかで注目すべき点と褒められない点をまとめ、戒めるべき所を戒めてきた。そして(メットフォンリーグ)MCL2016年シーズンの終了と、AFFスズキカップ予選ラウンドを終えたタイミングの今、またこの最大のトピックについて掲載させていただきたい。

まずMCL2016だが今年はボンケットアンコールFC(BKAFC)の優勝で幕を閉じた。今シーズンは優勝のBKAFCとナショナルディフェンスFC(ARMY)の二強が3位以下を大きく突き放しての優勝争いを演じた。開幕当初ARMYのここまでの活躍を期待したものは少なかったと思うが、開幕前に移籍した北朝鮮選手の活躍もあり前半を1敗で折り返すと、後半に向けて更に2人の同国出身選手を加入させ外国人枠3人+アジア人枠1人の計4人の助っ人外国人枠を北朝鮮選手で埋めた。特に後半加入した選手は同国のA代表にも選出された経歴を持つ選手で明らかに優勝に狙いを定めた上での加入だった。残念ながらBKAFCとの直接対決に敗れるなどし優勝を逃したが、来シーズンも引き続き北朝鮮選手を獲得すると見られ同チームの強豪としての地位は揺るぎないものになると思われる。

また、今シーズンの特筆すべき点を幾つか挙げるとすると、チーム勢力図が大きく崩れた事を先ず挙げたい。昨シーズンまで強豪にカテゴライズされた上位4チーム、BKAFC、プノンペンクラウン(PPCFC)、ナーガワールド(NAGA)、プリアカンリッチスバイリエン(PKRSVR)の4チームのうち、BKAFCを除く3チームが苦戦を強いられ、中段争いに加わる事態となった。PPCFCは開幕直前にチーム内の問題によって5人の主力選手がチームを離れた影響が大きく、急遽アカデミーから選手を昇格させたが、戦いぶりはまるでそのままアカデミーの戦いぶりのような様相を呈し、とても相手と戦いレベルではなかった。また、NAGAは昨年から引き続いてチーム内統制も取れ、今年こそはと期待させたが、前期原因不明の不調により勝ち星が得られず、後期は巻き返しを図ったものの時既に遅し、結局2位のARMYに大きく引き離され3位でシーズンを終えた。PKRSVRはカンボジア人選手のみで行われるフン・センカップの決勝まで駒を進め地力を見せたが、フン・センカップで上位に食い込むとMCLで結果を残せないと言うカンボジアサッカーのジンクスに引っかかり中段に埋もれた。そして、上位進出が絶望的となると監督自らがチームのフェイスブック内で謝罪文とも取れる文書を掲載。ファンと関係者に衝撃が走った。来シーズンに向けてこの3チームがどこまで復調しリーグ全体のレベルが上がってくるかが目下のところの最大の関心事といえるだろう。

それから、もう1点今シーズンで差がでたところといえば、サポーターの獲得状況だ。昨シーズンからにわかに活況を見せてきたカンボジアサッカーだが、今年に入って昨年から更に分かりやすい形で人気が見えてきた。人気3チームを上げるならばPPCFC、BKAFC、PKRSVRの3チームが抜きん出ていると言える。PPCFCとPKRSVRは自前のスタジアムを持ちサポーターを獲得するという明確な意志を感じることが出来るようになってきた。そしてそれが結果となって現れ始めている。特にPKRSVRは地方チームの雄だがホームの試合には平均して約3000人のサポーターが観戦に訪れ、大いに賑わいを見せている。チーム関係者は近い将来的には毎戦1万に程度の観客動員が見込めるのではないかと語っており、動員に伴う設備投資を行う事も視野に入れているという。また、この3チームに加えて地力のあるNAGA、急速に力を付けるARMYは目に見えて観客動員数が増加している。しかし、忘れてはいけないのはこれらチーム以外は目も当てられない様な観客動員数に留まっているということだ。リーグ全体のレベルが上がっていくにつれ人気不人気が出てくることは仕方が似事だが、今の差が大きくなる前に手を打たなければ巻き返すのは容易では無いだろう。

 

そして、絶対にお伝えしなければならない文字通りのトピックがカンボジア代表のAFFスズキカップ予選ランド突破だ。2年に一度アセアン各国が参加し、頂点を決するこの大舞台の本戦出場を、自力でもぎ取ったのだ。今回から予選方式が変更となった本大会、予選はカンボジア、ラオス、東ティモール、ブルネイのアセアン下位4カ国が参加しプノンペンで行われた。4カ国のうち本戦に出場できるのは1位通過のみと言う厳しい条件ではあったが、カンボジア代表は初戦でいきなりライバル関係にあるラオス代表を迎え、これを征すると続く2カ国も共に下し、全戦全勝で決勝に駒を進めた。見事といえる戦いぶりではあったが、チームの実力もさることながら対戦チーム監督が揃って口にしたのがファンの熱心さだった。会場となったオリンピックスタジアムには連日5万人を超えるサポーターが押し寄せた。特にカンボジアがボールを持つだけでも大歓声が上がるような中での試合は、敗れた3カ国にとっては精神的に動揺を与えるには十分だったはずで、監督達は敗戦後の会見でチームが少なからず影響を受けた事を認めている。勝負の世界にはホームアドバンテージと言う言葉が有るが、カンボジア代表は僅か2、3年の間に、ホームアドバンテージを生み出せるまでにサポーターを獲得したことになる。これまで、サッカー協会、メディア、それぞれのチームの取り組みを紹介してきたが、それらの取り組みが間違っていなかった事を証明した大会であった。

予選を突破したカンボジア代表は、今後ミャンマーで行われる本戦に出場する。正直なところ苦戦が予想されるが、予選突破の勢いそのままに少しでも上を目指して健闘願いたい。

 

これまで、この国のサッカーの盛り上がりを懐疑的に締めくくってきたが、どうやらそろそろ一時のブームとは言えない所まで来ているのかもしれない。たった数年でこれだけの変化を起こしたサッカー協会、メディア、チーム、そして何よりサポーターを評価したい。しかし、それでも尚厳しい言い方をすれば、やっとカンボジアにもサッカーを見ると言う事が広まったに過ぎない。以前は代表チームが試合をしている横で草サッカーに興じる若者も多かった。しかし、今は違う。以前は代表選手が座っている横で若者がカップ麺をすすっていた。しかし、今は違う。皆が代表チームの一挙手一投足に注目している。今後は常に見られているということ意識し、責任ある行動によってそれらの視線に応えていかなければならないはずだ。人間は大きな変化を経験すると初めは戸惑うものだ。しかし、人間には同時に慣れという恐ろしい感覚も備わっている。スズキカップの大会期間中、雨に見舞われサポーターの入りが遅れた事があったが、その際に協会のスタッフが疎らな観客席を眺めながら「今日は客の入りが少ないな、4万人くらいかな」と私に言ってきた。観客席がガラガラだったことなど遠い過去のこと、4万人でも少ない、と思わせるくらい彼らの中では5万人入って当然という感覚が芽生え始めているのかもしれない。これからは、すべての関係者がこの感覚を大切にして、常に見られているという意識を持って絶え間ない努力と情熱でこの国のサッカーのレベル向上に努めてほしい。

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