//無許可医療機関の問題と今後の課題

無許可医療機関の問題と今後の課題

2014年12月、バッタンバン州で信じがたい出来事が発覚した。州内のロッカーコミューン、ロッカー村にてHIVウイルスへの集団感染の疑いが持ち上がったのだ。

この情報は国立エイズ対策機構が発表した。事務官のタェン・クンティ博士によると、初期調査で子ども14人を含む72人がHIVウイルスに感染していた。集団感染が疑われるため、原因を究明し問題解決につなげていくつもりだと述べた。情報発表と平行して、12月8〜30日に保健省・WHO・UNAIDSを中心とした合同調査チームがロッカーコミューンの調査を開始。年が明けた1月9日に共同で発表された声明では、1940人の調査対象者のうち212人からHIVの陽性反応が検出され、その内訳は127人(60%)が15〜59歳、39人(18%)が14歳以下、46人(22%)が60歳以上だった。また、感染者の約80%に当たる174人がロッカー村の住民であったと報告された。

 

調査によると、今回の事件は最近起きたものではない可能性が高い。直接の感染原因は不特定多数との性的接触や薬物の介したものではなく、医療機関での医療行為中に感染した疑いが強いというものだった。疑いが持たれた医療機関は、ロッカー村のヤエム・チュルンという無免許医が働いている診療所だった。この無許可診療所を村人や周辺住民が受診し、診療の際の注射や点滴などで使用済み針の使い回しなどが行なわれ、感染拡大したというのが本件の大筋の見方だった。

それらの疑いが持ち上がった際、既にヤエム・チュルン氏は自らの身の安全を案じ、村から姿を消していた。同氏は12月17日にはその身柄を警察に拘束されたが、これは原因究明のために住民からのリンチを避け、同氏の身柄を安全に保つことが目的であった。その後、同氏はバッタンバン州の地方裁判所にて告訴され、調査結果発表後の今も原因究明に向けて捜査が進められている。

 

今後は厳格な対応を

 

真相は未だ解明されてはいないが、調査に参加したUNAIDSカンボジア事務所のイーモンド代表は今回の事件に関して次のように述べている。

「カンボジアではHIVのコミュニティケアと支援システムが築かれており、アウトリーチサービスと共に、多くのコミュニティの核家族へのサービスも実施している。UNAIDSはカンボジアの公的機関と協力して、こうした痛ましい事件が二度と起こらないようHIV予防サービスを拡大していきたい」

また、モム・ブンヘーン保健大臣も本件の今後の対応として、メディアや一般の人々に対して患者の人権を尊重するように要請し、個人情報の保護と差別や偏見の目から助けるようにと述べている。

今回の事件を受けて、カンボジア政府や保健省・プノンペン市等は無許可医療機関対策を講じ始めた。モン・ブンヘーン保健大臣は1月14日に行われた国民IDカード発行式典にて演説し、正式な資格のない医療機関の利用を止めるよう全国民に呼びかけた。また、政府の提供する正式なサービスを利用することで、医療機関の料金体系や診療技術について国が管理をしやすくなると述べた。

プノンペン市のパーソチェタボン市長も1月28日にプノンペン市保健局の会合に出席した際、保健局に対して「市内の病院と歯科医院の法律順守を確認するシステムを作り、無許可営業の医療機関を発見した場合は即刻営業を停止させるべきだ」と述べ、今後厳しい対応をとるとした。

 

医療現場の現状

 

告訴されたヤエン・チュルン氏は往診治療等にも熱心で、診療所経営の傍らに雑貨屋も営んだりとロッカー村の住民との関係は何ら問題なかったようだ。HIVに感染した212人という決して少なくない数は、無許可医療機関と言えども住民が頼らざるを得ない地方医療の現状を示している。

カンボジアは痛ましい歴史と内戦を経験し、医療従事者そのものが少ない。そして医療を取り巻く法整備も十分ではないと言える。カンボジアには現在3つの大学に医学部が存在しているが、その全てがプノンペンにあり、医学部卒業者の約80%はプノンペンに残って医療に従事している。医学部で学んだ知識を活かした医療環境はプノンペンにしか存在しないと言っても過言ではない。

 

官民が連携した新しい取り組みに期待

 

このような医療従事者を取り巻く状況も影響して、これまで地方の医療環境は蔑ろにされてきた。しかし、今後はカンボジア政府始め、行政機関や民間医療機関・医療者育成機関などが相互に協力し合い、医療設備などのハード面、医療従事者育成などのソフト面、両面において積極的な現状改善策を講じていくことがこのような事件の再発防止には欠かせないだろう。特にソフト面では、地方農村部での医療従事者の育成が極めて重要な課題だ。

例えば日本では、地方医療者を育成する目的で自治医科大学を設置している。そのシステムは独特で、卒業後に国の定めた地方病院勤務を9年間義務付けられる代わりに、大学在学中の学費を全額免除される。その後の定着率等で問題を抱えているが、医療者を地方に安定的に送り込むという点で重要な役割を果たしている。カンボジア国内においても今後、このような地方医療者の育成機関の設置が必要となるだろう。

そして、医療従事者としてのモラルとマインド育成も、育成の際に欠かせない項目だ。既に一部の医学部では、医療従事者の適性診断と、適性を身につけるためにオーストラリア式のOSCE(Objective Structured Clinical Examination)を導入している。「闇医者の息子はまともな医者になる」という言葉があるが、次世代に引き継がれた際には正しい知識とモラルを持ち、無許可医療の現状が大いに改善されることを期待したい。

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