//マイクロファイナンス発、地方農村部の小さな変化が成長に陰を落とすか

マイクロファイナンス発、地方農村部の小さな変化が成長に陰を落とすか

5%の利用者減少、小口ローン事業の縮小が要因の1つに。

 11月15日、プノンペンポスト紙はマイクロファイナンスの利用者が第三4半期5%減少に転じると伝えた。記事によると、カンボジアマイクロファイナンス協会(CMA)に所属する66のローカル事業者の顧客数が約184万人となり2016年の同時期に約194万人だったのに対して5%減少した。減少の要因は、1つローン需要の減少、2つ貸し付け条件の厳格化、3つ貸し付金利の上限設定による地方農村部での小口ローン事業の縮小だった。僅か5%、記事の内容も薄く、見落としてしまいそうな小さな記事だったが、引っかかる物があった。それは、3つ目の要因としてあげられた地方農村部での小口ローン事業の縮小だ。2017年6月に金利上限が設定された事に関して記事を掲載した際に、今後懸念される大きな弊害としてまさに地方農村部での営業活動の鈍化を指摘していたからだ。
 カンボジア政府は大手銀行から地方農村部のクレジットオペレーターに至まで、登録している全ての国内金融機関の貸し付金利の上限額を最大18%に引き下げる事を決定。2017年4月10日から実際に施行に移した。施行に当たって政府は金利を下げる事で、返済が容易になり利用が促進されると説明した。しかし、事前に一切説明を受けていなかったCMAは上限設定に反対し、その意見と懸念事項を政府に提出したが結局議論される事は無かった。施行から僅かに半年足らずでその懸念が数値となって現れてしまったが、要因の1つとなった地方農村部では施行後にどのような変化が起こったのだろうか。

最大金利18%、営業する程疲弊しかねない地方農村の小規模事業者。

 まず始めに考えなければならないのが、地方農村部での小規模事業者と顧客の関係だ。両者の関係は地方都市も含めた所謂マスマーケットをベースに全国的に事業を行っている銀行マイクロファイナンス機関とは大きく異なる。その為同様の理屈は通用しない。
 ここで問題となるマイクロファイナンス機関の多くは基本的に自己資金で運営を行い、預金預かりが出来ない預金不可機関である。そして、マスマーケットから隔離されたニッチマーケットの顧客の元へ自らの足で赴き、多くて数百ドルの短期小口契約を交わす事を生業としていた。顧客獲得とその後の回収にかかる人件費は都市部で営業する事業者の比ではなく、これまではその手間に見合うだけの利息(18%以上の高金利)を設定していた。また、同様の理由から必然的に従業員一人当たりの貸付額は低額で事業を拡大しようとすればする程、経費が嵩んだ。その為事業規模は自ずと限定され、大規模になり得ないと言う事も彼らの機関の特徴だった。しかし、大手事業者とは違い経済圏から隔離された地方農村部に根付き、資本を循環させると言う側面も持ち合わせており、農村部の経済活動には欠かす事の出来な存在でもあった。
 このような独特な関係がある中で行われた貸し付金利上限の施行。上限が18%となった4月10日以降、地方農村部の事業者は方針変更を迫られた。貸付金利、つまり事業者の利幅が制限された事で、元々の短期小口契約では、従業員を動かし足で契約を交わせば交わす程、利益が目減りすると言う現象が生じた為だ。例えば100USDを顧客に貸した場合、単純に計算して一年後に返済される金額は金利18%を足した118USDとなる。たったの18USDだけだ。その契約を履行する為に従業員と移動にかかるガソリン代等の経費を使わざるを得ない。顧客への貸付状況を調べれば今後どの程度利益が目減りするのかは一目瞭然であり、その状況を彼ら自身黙って見てはいられない。彼らは元々の生業であった地方農村部での短期小口契約の規模を縮小し、受け身に転じた。 
 この結果が僅か半年で利用者が減少した事に繋がったと言える。これは、乱暴な言い方をすれば利用者の切り捨てと言えるが、切り捨てた事によって彼らが持っていた資本を循環させると言う側面も同様に停止した。その為、地方農村部の経済活動に必要な資本が今後十分に供給されない恐れも生じており、地域格差拡大が加速する危険性も出てきた。

需要と供給を繋ぎ直すシステムを再構築出来るか。

 全ての事業の基本は需要と供給のバランスで成り立っており、マイクロファイナンス業界も例外ではない。利用者の減少は特に地方農村部の場合一方的に供給がストップしているだけで、引き続き需要は保たれている事を忘れてはならない。仮に施行前のような高金利を設定しても利用者は存在するだろう。その点を踏まえ、金融機関の法人格と目的に応じて金利上限を変動させるなど政府に掛合う事は出来る。しかし、掛合ったところで今日明日中に改正が行われない事は目に見えている。今現在18%の金利制限がある以上、考えなければならないのは、これまで自らの足で繋いでいた需要と供給を如何にしてもう一度繋ぎ直すかと言う事だ。
 CMA加盟のマイクロファイナンス事業に参画している日本人の一人は、その答えの1つとして今カンボジア国内で話題の電子化を加速させる事を挙げている。今まで架かっていたコストを省く為、地方に支店などを出さずに人と設備を置く事を極力控え、その代わりに電子化技術を利用し需要(地方農村部)と供給(事業者)の双方をよりダイレクトに繋ぎ合わせようと言うのだ。現状、カンボジアは電子送金サービスのウイングをはじめとして、銀行口座を利用しない個人同士を繋ぐ金融サービスが盛んに利用されている他、インターネットのカバーエリアが急速に拡大し、地方農村部でもスマートフォン利用者が徐々に増加している事などマイクロファイナンスの貸付業務を電子化するに当たってのプラス要素は以外にも多い。さらに利点として電子化で双方が繋がる事によって、利用者に対する金融リテラシー向上のプログラムなど届けたい情報をより直接的に届ける事が出来るようになると言う。

地方農村部での経済活動に必要不可欠な事業、それがマイクロファイナンス。

 カンボジア政府は近年、都市部と地方の間に生じている地域格差解消に向けて必要不可欠な事業として、双方を結ぶ生活及び交通インフラの整備に力を入れているが、インフラの整備と同様に地域格差を是正し経済活動の為に必要不可欠な事業だったのが小規模マイクロファイナンスの事業者だ。彼らの活動によって地方の農村部に資本を循環させた事で経済活動を営む事が出来ていた国民は少なくない。その資本の循環が政府の借り入れ利用促進を狙った貸し付金利上限18%のあおりを受けたことで滞り始め、その中には借りたくても借りられないと言う状態の顧客を抱える事業者も存在することは確実で、僅か5%ではあるが、1つの事実として、全国規模の大手金融機関が堅調な成長を続けるその裏に差す陰を注意深く見つめる必要がある。