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マイクロファイナンスと人材教育

 カンホジアの注目すべき成長産業といえば金融業、特にマイクロファイナンス分野だろう。国内需要や消費動向にも影響を与える同分野の成長は注目して見守らなければならないが、最も新しいCMAのレポートでは今後も右肩上がりで成長する事が予想され、その要因として若い世代が積極的に利用し始めている事を挙げている。筆者は、4年前実際に窓口に融資を受けに行った事がある。その際、個人への最大融資額は100ドルですと言われて驚いたが、この4年間で限度額も制度も随分と変わったようだ。若い世代は今、自家用車や家の購入資金などにマイクロファイナンスを盛んに利用しており、これまで個人の所得では手の届かなかった高額な商品を購入するための一つの方法として認知されている。
 カンホジアでは、金融業者は中央銀行の規定に従って6つに分類される。商業銀行・特殊銀行・預金認可マイクロファイナンス・マイクロファイナンス・リース業者・クレジットオペレーターだ。中央銀行はそれぞれに対して最低資本金額など細かく条件を設定し認可を与えている。現在カンボジアでは商業銀行、特殊銀行が合わせて約40社、マイクロファイアンスが約70社営業している。しかし、成長過程に問題は付き物であり、これまでマイクロファイナンスの基本理念から逸脱したNGOや個人経営のいわゆる闇金融が多く存在し、利用者との間で問題も多く発生していた。利用者の借り入れ情報などの利用状況は2010年よりCBC(Credit Bureau Cambodia)によって管理され、多重債務の防止や借り入れ制限などに反映されてはいるが、中央銀行からの明確な指示があるわけではない。また、それぞれの事業者がCBCにデータ登録せずに直接利用者に貸付を行うなどの行為が後を絶たないのが現状である。さらに言えば、利用者の側にも問題はある。長期的な返済計画を立てずに目先の欲に左右されて借り入れを決める者も多く、今後利用者に対する初歩的な返済計画と教育が必須となってくるだろう。「貸したい・借りたい」という両者の思惑と、CBC を始めとするシステムの不足。右肩上がりで成長を続け、国内消費を活発に保つためにできるところから改善を望みたい。

 このように両面併せ持ちながら成長を続けるマイクロファイナンスの分野に、新しい取り組みを計画して参入した企業がある。弱冠28歳のカンボシア人青年ワンニャット氏が代表を務めるこのローカル企業にとってマイクロファイナンスは一つのツールであり、目的ではない。この企業の最大の目的は、雇用の創出とそれぞれのニーズに見合う高度人材の育成だ。では、そこにマイクロファイナンスがどのように関係してくるのか。この企業はこれまで学生就学支援事業、人材派遣事業を行なってきた。この二つの事業が連携して機能し、育てた学生を人材派遣会社を通して社会に送り出していくわけだ。そして、今回さらにマイクロファイナンスが加わった事で、ファイナンスに問題があるもしくはファイアンス支援を必要とする全ての学生に平等な就学の機会と、雇用の機会を創出する事ができるようになった。カンボシアにおいてこれは画期的な事と言える。就学から就職までこの企業を通して直接繋がるからだ。これにより企業と学生の利用者双方に大きなメリットが生まれる。企業側は必要な人材をリクエストするが、要望にマッチする人材の育成がアルバイト料程度の最低限の投資で済むのだ。具体的な方法として、今後企業と協力してインターン生を企業に送り、平日は通常勤務を、そして休日に不足しているスキルを補うという事を計画している。この企業では仕事とスキルアップの両立をデュアルエデュケーションと呼び、基本的に1ターム3ヶ月のスキルアップ期間を設ける計画だ。スキルアップに関わる費用は基本的にインターンで得たアルバイト料からまかない、企業側は従来の育成や採用活動に置ける大きな投資を行なわなくて済むのだ(現在計画では企業負担は当該期間のアルバイト料のみの予定)。
このプログラムの利点は、社会人としての基本的なスキル・基礎能力開発は対象企業らから要望を受けて臨機応変にカリキュラム対応し、企業側も「優先採用交渉権」の付与により、正社員として採用する前に気に入った学生の能力や短期間ながらの成長をみられる点にある。また、学生側にとってもメリットは多く、複数のインターン経験を経て自分の適正を判断でき、同時にそれぞれの業態に沿った能力開発も受けられる。そして教育ローンだけでなく、デュアルエデュケーションのおかげでカリキュラムによっては授業料の自己負担が実質的になくなるのだ。

 この3分野に渡る事業を行うまでに至った経緯を、ワン二ャット代表は次のように語っている。「カンボジアの学生は学校を出ただけではまともな企業で働く事はできないでしょう。まだまだ彼らの多くは、企業の必要としているレベルに達していません。しかも、学生もまた企業が何を必要としているのか分かりません。そして必要としているスキルを身につける資金も環境もありません。そこで、我々が学生と企業双方の間に入り、各々のニーズに応じたマッチングとファイナンスの支援を行います。しかし、今回立ち上げたマイクロファイナンスは、学生専用ではありません。既存の事業は独立しても仕事をしますので就学支援を利用できますし、人材派遣だけを利用して職に就く事もできます。もちろんマイクロファイナンスを利用して車や家を購入してもらう事もできます。」卒業生への独立支援・更なる留学サポート・海外実習等々、ワンニャット代表のビジョンはそれぞれを連携させて動かす事で、大きな連鎖として機能していく。「カンボシア基礎教育の裾野拡大と高度教育を受ける機会を増やして、カンボジアを ASEANの勝ち組、世界の勝ち組にする」というのがワンニャット代表が創業時に掲げた目標で、カンボジア人が舵を取る企業でこれほど理念と長期的な視野を兼ね備えた企業は中々見つからない。

 これまで教育、金融、人材派遣への支援はそれぞれが独立した形態をとるのが普通であり、今回の3事業連携というのは意表をつく話ではあるが、内容を聞くと非常に理にかなった話である事は容易に理解できる。ワンニャット代表は「まだ計画段階である事も多く、簡単に話が進むとは思えませんが、企業と利用者の理解が進めば必要とされる事業だと信じています。」と自信を見せている。マイクロファイナンスを一つのツールとして捉え、そこからこの国の未来を創造する高度人材を育成する新しい取り組みが始まろうとしている。

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