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選挙改革に向けてついに与野党が合意

 2015年2月28日に国民議会議員にて行われた与野党間の非公開会談の末、2012年の国民議会選挙後から続いていた選挙改革に関して遂に与党人民党と野党救国党が全ての協議項目で合意した。会談には人民党ソー・ケーン内務大臣、救国党サム・レンシー党首が揃って出席し、最終的には与野党の指導者が直接対話の場を持ち、お互いに折り合いを付けての合意であった。会談後の記者会見では、この日の会談で両陣営が議題とした15個のポイント全ての項目において合意したと発表された。サム・レンシー党首が「皆の重要な利益のために、両党の対話によってこの問題を解決できた」と述べると、ソー・ケーン内務大臣も「次のプロセスは、この選挙改革に基づいて関連する法整備を進めることだ」と述べた。
 この合意を受けて、3月9日の国民議会にて合意事項に関するセミナーが行なわれ、19日には選挙改革関連法案のために議会が招集された。この日、記者の取材に答えたサム・レンシー党首は「同法案は両党の実務者が長い時間を掛けて協力して作り上げたものであり、議会議員はこれ以上内容を交渉する必要はない」と述べ、早期の法案成立を目指していることを示唆した。また、フン・セン首相も新法案下で組織される新選挙管理委員会の発足はクメール正月前の4月13日を予定していると発言し、前向きな姿勢を見せている。

両党の思惑が議論を長引かせた

 両党が改革に向けて本格的に動き出したのは、次回選挙が2018年に迫っていることによる。改革完了前に議員任期が終わることを避け、何としても新法案下で選挙を行なわなければならない。では何故、両党はこれほど長い時間を掛けた議論が必要だったのか。両党が選挙改革について直接議論を開始したのは、昨年7月22日の野党救国党の国民議会ボイコットを終息させた与野党合意後からである。与野党は選挙改革に向けてそれぞれ実務者グループを組織し、話し合いは週一回のペースで行なわれた。その間、選挙関連NGOや選挙改革に関して支援を行っている日本政府の専門家等とも意見交換をしてきたという。しかし、与野党が揉めたのはお互いの利益に深く関わる項目に関する決議で、最後まで交渉が難航した項目は次の通りだと伝えられている。

【与党人民党から野党救国党への要求事項】
・ 現在1ヶ月間の選挙運動期間を2週間に短縮し、最大でも3週間までとする。
・ 選挙パレードは選挙期間中、初めと終わりの2日間だけとする。
・ NGOが政府批判を行う場合5000万リエルの罰金を課せる。逆に政府はNGOを批判することができる。
・ 選挙に行かないよう国民に呼びかける党は自動的に登録を抹消される。

【野党救国党から与党人民党への要求事項】
・ 平等な立場にあるべき軍人・裁判関係者は選挙運動へ参加できない。
・ 選挙資金に上限を設ける。

 野党救国党の選挙改革実務者グループで実際に交渉に当たっていたイム・パンニャリット議員によると、今回の合意において100%満足いく議論ができたわけではないが、時間的制約の中で最善の話し合いはできたという。そして、特に議論が白熱した項目が2つあったという。1つは、与党が求めている選挙運動期間の短縮と選挙パレードに関する項目。もう1つは野党が求めた軍人・裁判関係者の選挙運動への参加問題だ。前者に関しては、前回の選挙期間中、野党救国党は連日激しい選挙戦を展開していた。プノンペン市では夕方に仕事後の社会人、学校帰りの学生を動員したパレードを街中で展開し、その勢いは人民党を圧倒していたと言っても過言ではない。そのため、人民党としては次回選挙時に同じ展開を避けたいのは当然と言える。また、選挙パレードは特にプノンペンにおいて交通渋滞を引き起こし、一時的な物流の停滞を起こす。発展著しい首都において今より更に交通量の増える2018年に同じような状況となるのは、政府・関係省庁としても避けたいだろう。この要求での禁止事項は街頭パレードに限定され、集会を実施は禁止されていない。救国党は民主広場での大規模集会から街頭パレードという流れも多かったが、集会だけでも政党の影響力が保たれ、選挙活動として十分であると最終的に救国党が折れる形で合意した。
 もう1つの項目、軍人・裁判関係者の中立性の問題に関しては、野党としては是が非でも譲れない項目だった。カンボジアの軍隊はその成り立ちから言っても人民党に非常に近く、中立を求めること自体が難しい。軍人自ら選挙運動に参加して人民党を推すというのは、一般の国民への影響を考えると救国党には望ましくない。裁判関係者の参加も同じだ。これらに関してどのような条件で人民党が受け入れたのかは明らかではないが、最終的に合意に至っている。

日本とともに新しい選挙システムの構築へ

 様々な問題を克服して合意に至った両党だが、2018年に控える次回国民議会選挙までに新しい選挙システムを整備するのは容易ではない。カンボジア政府は2012年にプノンペンで行われた日本・カンボジア首脳会談において、安倍総理と日本政府に対して選挙改革支援を要請し、日本政府はこれを承諾している。そして選挙改革に向けて専門家を派遣し、現状の問題理解と改革に向けての方向性を示しているわけだが、イム・パンニャリット議員以下実務者グループは今後それ以上の強いリーダーシップを求めているという。彼らが特に支援が必要だと考えているのは、選挙人名簿作り直しの問題だ。政府は今後新たに選挙の投票資格者リスト、所謂選挙人名簿を作成することになる。しかしそれは、投票時のなりすまし問題や同一人物の複数回投票問題など、カンボジアの選挙における根本的な問題であるため作業は難航するだろうとイム・パンニャリット議員は述べ、日本政府の豊富な経験と専門家の知識が必要だと訴えた。その他日本政府に期待を寄せるのは、ハード面では選挙システムの構築及び機材の提供。ソフト面では選挙に関する専門家・法律家の指導とカンボジア人への育成だという。

選挙改革の成果が両国関係の象徴となることに期待

 野党救国党に比べて与党人民党はこれまでの政権運営の中で日本政府と強いパイプを構築してきており、三者で話し合う際に不利になる不安がないとは言えない。しかし、三者が同じテーブルに着くことが大切であり、オーストラリアやアメリカ、旧宗主国であるフランス等の政府ではなく、日本政府に支援を要請することは救国党にとっても最善の方法であるようだ。これらの支援によって信頼関係がより一層高まり、両国関係の象徴となることに期待したい。また、与野党と全国民にとって平等で公平な改革が行われ、一人でも多くのカンボジア国民に受け入れられることを望んでいる。

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