//緊張を増す与野党間の攻防と、続く新党立ち上げブーム

緊張を増す与野党間の攻防と、続く新党立ち上げブーム

勢いを増す与党の攻勢、防戦の続く野党

 昨年10月30日、野党救国党議員がボイコットを行う中で国民議会が招集され、同党副党首で国民議会第一副議長を務めているケム・ソカー氏の副議長解任決議が行なわれた。投票の結果、満場一致で可決され即日解任となった。そして解任決議から約半月後の11月13日、今度は同党党首のサム・レンシー氏に逮捕状が出た。罪状はサム・レンシー氏が2008年に行なった演説の中で、ホー・ナムホン外相の名誉を著しく損なった事による名誉毀損の罪で、2011年には懲役2年の有罪判決が確定していた。その刑に対して13日に執行要求が出され、即時逮捕状発行となったのだ。サム・レンシー党首はこれを受けて当初は帰国して自身の正義を国民に広くアピールするとしていたが、結果として彼の第二の活動拠点であるフランスへ渡り、国際社会へ自身の国内活動への復帰の働きかけを続けている。
 このようにここ数ヶ月、与党による野党への攻勢が激しさを増してきている。与野党は昨年7月の与野党合意以来、「対話の文化」を尊重するとして、話し合いを重視してお互いを尊重しながら難しい局面を解決に導くとしていた。祝い事にフン・セン首相、サム・レンシー党首が揃って出席したり、お互いの家族を招いた個人的な食事の場を持つなどして、公私にわたって雪解けムードを漂わせていたはずだった。しかし、何故今このような状況になってしまっているのか。サム・レンシー氏の亡命時代に共にフランスで過ごし非常に近い距離にある救国党議員に、これまでの与野党間のやり取りについて伺った。

 まず、これまで「対話の文化」が本当にうまくいっていたのかという事についてだ。これは、策略家として知られるフン・セン首相と知略に優れたサム・レンシー党首の思惑が一致しており、お互いが協力関係をアピールした方が支持者のために良いと考えていただけに過ぎず、フン・セン首相はサム・レンシー党首を常に下に見ていた様子があった。そしてここ数ヶ月の与党人民党側が攻勢をかけてきている事に関して、フン・セン首相周辺が次期地方選挙と国民議会選挙に向けて焦りを感じており、あまり選挙に近くならないうちに野党の戦力を削ぐのが目的だ、と言う。ケム・ソカー氏が解任される4日前、国民議会前では人民党支持者による同氏副議長解任要求デモが発生し、一部の支持者から襲撃を受けた救国党議員が負傷する事態が発生した。そして、解任要求は国民の意見であるとしてケム・ソカー副議長は解任された。話を伺った同議員は、今後このような実力行使を伴う与党による「救国党つぶし」とも言える動きは強まると考えている。実際に、フン・セン首相は事件後の演説の中で、襲撃に関しては何も指示をしていないとして自身の関与を否定したが、デモ集会そのものは人民党支持者によるものである事を認めている。ここで一つの疑問が生じる。今後の攻勢の中で、フン・セン首相がこれまでにも散々集中砲火を加えてきたケム・ソカー氏にも些細な文句や過去の行動から何らかの理由をつけて逮捕の動きが出るのか、という事だ。これに関して同議員は、「ケム・ソカー氏はこれまでに逮捕に直結するような行動をとった事はない。それに、同氏を逮捕拘束したところで人民党側が何か有利になるという事もない。今のところ、逮捕は考えられないだろう」と否定した。また、今後のサム・レンシー党首の動きについては、「今後すぐに帰国する事はない。国内にいた時にはフン・セン首相と頻繁に直接連絡を取っていたサム・レンシー党首だが、現在2人の間に直接のやり取りがあるのかはわからない」と説明した。

 せっかく「対話の文化」を表に出して両党が歩み寄っていただけに、このような状況は由々しき事態である。それ故、現状を改善するための動きも出始めている。副首相兼内相のソー・ケーン氏とケム・ソカー氏が12月10日に国民議会にて会談に臨んだ。両者は約1時間の会談の中で、今後も両党が掲げてきた「対話の文化」を継続していく事を確認した。そして同月16日にはヘン・サムリン国民議会議長の命の下に国民議会を召集するとしている。(執筆時12月13日現在、救国党が参加するかどうかは未定)

新勢力の構築を目論む新党の立ち上げブーム

 与野党間の攻防に乗じて、第3、第4の勢力となるべくラナリット殿下率いるフンシンペック党や、泡沫政党の動きが活発化してきている他、新党の立ち上げの動きが活発化してきている。アメリカからの支持を受けるクメールパワーパーティーや、反政府ラジオ局を運営している蜂の巣党等が支持者集めのための集会を頻繁に開催している。しかし、これらの小規模政党は、二大政党のように各地に擁立候補を立てて下部組織を持つに至るまでは整備できていないのが現状だ。次期国民議会選挙までにどこまで整備ができるのか、そして勢いを維持できるのかが焦点となりそうだ。

 次回選挙に向けて行なわれている選挙改革に基づく選挙人登録が、来年の上半期には始まる予定だ。与野党間の攻防は、選挙改革にも少なからず影響すると見られている。選挙改革には日本政府が大きな役割を担っている。日本政府は、強いリーダーシップを発揮してより良い次世代作りを牽引していただきたい。