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目指すべき姿なく、模索の続く日本食業界。

理想と現実の狭間で撤退も相次ぐ日本食店。

 プノンペンはここ数年、日本食店の出店が相次いだが最近では落ち着きを取り戻したように感じる。それでも100件を超える日本食店がカンボジア全土で営業しており、特にプノンペンではその大半を見ることが出来る。カンボジアで日本食店が進出を始めたのは今から10年以上前に遡る。当時は素人食堂のレベルで、あくまでも個人経営の小さなお店が10店舗程度だった。状況が大きく変わったのはイオンモールが出店した前後辺りからだ。その頃から企業の投資案件としての進出が増え、特に地方で名の知れた飲食店の進出が相次いだ。地方の飲食店は、元々海外で事業展開をするという業態ではなかったが、少子高齢化と都市部の人口集中によって新たな収益源の確保が必要になり、その目は日本の都市部の他に海外にも向けられ始めた。
 また、この頃から所謂進出コンサルを名乗る者が飲食店の誘致に力を入れ始めた。彼らはプノンペンがあたかも新天地の様に謳い、実態とはかけ離れた資料で進出を煽った。日本の小規模飲食事業者にめまぐるしく移ろうプノンペン状況を読み切ることは難しく、進出にあたって助成金が出るなどの甘い話もあり、進出が相次いだ。
しかし、蓋を開けてみればプノンペンは首都とはいえ日本の地方都市以下の経済規模しか無く、ターゲットとしていた日本人も数千人に満たないまるで過疎の村であった。加えて初めての海外進出でクメール語はもちろん英語もおぼつかないような日本人スタッフがカンボジア人スタッフをコントロール出来るわけもなく、思い描いた品質の商品とサービスの提供には相当な難しさがあった。また、他の食文化に若干の抵抗を抱く一般のカンボジア人を客として取り込むことにも苦労した。その結果は散々たる物となったが、更に追い打ちをかけたのは進出を煽ったコンサル業者の無責任さだった。アフターフォロー等は満足に得られず、無念のうちに撤退するという日本食店も相次いだ。現在でもその状況は続いているが、進出数が落ち着いていること、そして撤退の時には皆ひっそりと撤退していくため余り派手な動きは見られない。

模索する中でトレンドを掴めるか。

 このような状況のなかで将来的な方向性を模索する日本食店が現れ始めているのも事実だ。その一つがメインのターゲットを日本人以外にシフトした日本食店だ。プノンペンにおいて現状一番羽振りがよいのは残念ながら日本食に長年親しんだ我々日本人では無い。羽振りが良いのは何よりもカンボジア人のニューリッチ層や中国人投資家などだ。その彼らが求める飲食店とは何なのというのが今一つの答えとして出ている。それは何も日本食に限ったことではないが、特に日本食はそのイメージが彼らの持つ健康志向や高級感とマッチし比較的受け入れられやすい。
 この方向性にシフトし徐々に日本人以外の比率を上げ今では逆転した日本食店の店主は次のように語っている。「今のプノンペンのレストランのトレンドは客単価で50〜100ドル以上取るような高級店の出店です。普通の食堂ではなく、カンボジアのニューリッチ層が家族や仕事仲間、商談等で使ってくれるような特別な店が求められていますし、そのような店はまだまだ足りないと感じています。彼らは食事をしに来るのではなく、レストランに時間を買いに来るのです。その彼らが食事よりもまず、その店を訪れたいかどうかということが大切です。そして彼らが繰り返し来てくれるかどうかには、何よりも空間作り、そしてメニュー作り、スタッフの教育が欠かせません。」
 さらに同氏はこのような高級日本食店以外にも言及、価格別のニーズを的確に捉え、品質と価格のバランスを取ることも今後は重要だと語る。「カンボジア人経営者も飲食業に続々参入しています。彼らは国外の状況、特にタイやベトナムと言ったアジアの隣国の客の嗜好を良くリサーチしており、その業態は高級店だけに留まりません。実際に多くの客で賑わっている中級の店も多くあります。そのような店では例えば、我々からすれば邪道だと思えるような日本食も提供され客に受け入れられていますし、そうすることがマーケットの需要を満たすために正しい選択の場合もたくさんあります。」

日本食は日本人が作り日本人に提供すると言う固定観念を捨てられるか。

 日本人が日本人相手にごく限られたマーケットで商売をしてきたのがカンボジアのこれまでの日本食店だった。中にはそうでない店もあったが日本人の行かない日本食という事がまるで不名誉なことのように伝えられ、実際その通りということも少なくなかった。しかし、現状は変化しており多様な日本食が提供されるようになってきた。特にフランチャイズの日本食店をカンボジア人が経営するという例も増えてきている。フランチャイズであれば日本側で作り上げた品質管理ノウハウ等を受け継ぎ、今までカンボジアにない部分をそのまま持ってくることが出来る。また日本企業にとっても少ない投資で他国に進出できるメリットが有りお互いにとって良い選択といえる。
 このように日本食店は日本人が経営し収益を上げるものではなくなっている現実がある。思うように収益につながらない現状を嘆く日本食店と日本人経営者は多い。互いに嘆きあうことでストレス解消にでもなっているならば救いも有るが、嘆くよりも先ず己の店がどの程度のレベルと品質なのかをまずよく見極める事が大切なのではないだろうか。そして日本人と言う少ないパイを奪い合うのではなく。真に現地に根ざした日本食店とは何なのか考える時ではないだろうか。それがたとえ受け入れがたいとしても。

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