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代表監督、突然の辞任。チャン・バタナカJリーグ初出場。

 これまでも、何度も機会を頂きお伝えしてきたカンボジアのサッカー事情。今回は代表監督の辞任と、チャン・バタナカのJリーグ公式戦初出場と言う2つのトピックを中心にお伝えしたい。

リオナルド・ビットリーノ代表監督、シーゲームの惨敗と突然の辞任。

 この3月からサッカーカンボジア代表を率いていたブラジル人のリオナルド・ビットリーノ監督が就任から僅か7ヶ月で早くも辞任した。就任後目立った成績を残せなかった事と、U23を率いて戦った東南アジア大会での惨敗が辞任した主な理由とされているが、正式な辞任理由が協会から発表されているわけではなく真相は不明だ。
 代表監督の去就はリー・テフン監督の任期満了に伴って昨年末からファンの話題にあがり始めていた。リー・テフン監督の続投を望む声もあったが、協会は今年の3月リオナルド氏を新監督に、その他2名の外国人アシスタントコーチを含んだ新体制を発表した。サッカー強豪国ブラジル出身の監督就任は国内メディアにて大きく扱われた。就任時のインタビューでは「2023年の東南アジア大会に向けてのスタートであり、大きな挑戦のスタートだ」と語った。実際リオナルド監督が就任すると代表チームの雰囲気は大きく変わった。リー・テフン氏が選手と敢えて距離を置き常に甘さを見せる事が無かったのに対して、リオナルド監督は選手との距離が近くフレンドリーな印象を受けた。前向きに表現するならば明るく伸び伸びとした雰囲気に、後ろ向きに表現するならば緩い印象となった。
 また、選手の起用方法や試合戦術も大きく様変わりした。その中には疑問を呈したくなるものも多く、それに伴って成績も低迷した。リオナルド氏は結果を残せない中、メディアに対して常に「挑戦と、改革は始まったばかりで我々は2023年の東南アジア大会に向けて正に今スタートしたばかりだ」と言い訳とも取れる説明を繰り返した。そして8月にマレーシアで行われた東南アジア大会の会場では選手の女性問題が発覚。若手選手がチーム内で謹慎処分に処された。東南アジア大会でU23は一勝も納める事が出来ず、スキャンダルと惨敗のニュースは国内メディアで大きく扱われる事となる。そして東南アジア大会直後に、アウエーで行われたAFC ASIAN CUP2019予選のカンボジア対ベトナムを0-5で惨敗。この試合を最後に現場を離れ、そのまま辞任となった。
 確かに、彼が好成績を残す為に様々な面で改革を訴え、実行していた事は事実だろう。しかし、同じような苦難を前任リー・テフン氏も経験していたはずだ。また、何も彼が改革のはじめの一歩を踏み出したわけでもない事を彼と彼のスタッフは忘れるべきではなかった。実際に、リー・テフン氏も協会と代表チームの改革の必要性を幾度と無く口にし、時にその胸の内をただの不満ではなく将来への提言としてメディアを通して国民に訴えた事もあった。リオナルド氏の辞任は本当に残念でならないが、彼がその点を軽視し余りにも急速に変化を求めていたとすれば大きな過ちだっただろう。リオナルド監督が今、どのように就任期間を振り返っているかは分からないが、辞任後に筆者と交わしたメッセンジャーでのやり取りの中で「変化を起こす事が難しく、それを行う事が出来なかった」と記している。

アジアの至宝、チャン・バタナカの不遇。

 そしてもう1つの話題、それはチャン・バタナカのJリーグ公式戦初出場だ。今期、カンボジアのボンケットFCから日本の藤枝MYFC(J3)にレンタル移籍していたバタナカが、遂にJリーグ公式戦初出場を果たした。10月22日のSC相模原戦、後半42分で交代したバタナカはコーナーキックを蹴るなど見せ場を作った。この出場で遂にチャン・バタナカの名前がJリーグに刻まれた事になった。
 前評判とは裏腹にここまでで出場の機会が与えられなかったと言うのは納得がいかないと言うのがファンの本音だろう。移籍のニュースが出るや、「アジアの至宝」「カンボジアのメッシ」などと持て囃され鳴り物入りで、J3へ移籍したバタナカだったが今回のJリーグ公式戦出場に至るまでに彼に与えられた機会はたった一試合、天皇杯の静岡県予選に途中出場したのみだった。ベンチ入りの機会も殆ど無く、遠征外のメンバーに甘んじていた。代表戦の為に帰国したバタナカに日本での状況を尋ねると、表情を曇らせ言葉少なに「後期はチャンスがあると思うよ」とポツリ。本人もいつ試合に出られるか分からない状況に戸惑いを覚えていただろう。そんな戸惑いを払拭するように代表ではアジアの至宝ここにありの活躍を見せていたが、バタナカが足りていない部分、問題として藤枝MYFCの大石監督は「スピード・守備力・スタミナ」だと指摘し、フィジカルコーチと共に練習メニューを作るなど、成長を促していた。
 しかし、シーズンが進み後半に入っても状況に変化は見られず出場機会が与えられない状況にバタナカのレンタル元、ボンケットFCのGMも「活躍できるか出来ないかと言う話ではない。そもそも機会が与えられない以上は仕方が無い」と不満を口にするようになっていた。それだけではない、9月に入ると世界的に影響力のあるFOXスポーツのアジア版にてバタナカの不遇について「バタナカは東南アジアで最高レベルのパフォーマンスを示す事が出来たが、日本ではその機会を得る事は許されない。日本を離れ東南アジアに戻るべきだ」と言う論調の記事が配信されカンボジア人ファンの間で話題になった。とにかく彼がここまで機会を与えられなかったと言う事には疑問が残る。
 バタナカはもちろん即戦力として期待されていたはずだが、そのパフォーマンスだけが注目されていたわけではなかったはずだ。近年、Jリーグの海外戦略において東南アジア人選手の獲得は重要な意味を持ち、コンサドーレ札幌(J1)に移籍したタイ代表のチャナティップや水戸ホーリーホック(J2)に移籍したベトナム代表のグエン・コン・フオンと並び、バタナカの移籍もカンボジア人初のJリーガー誕生として意味のある移籍だった。国力に比例するように他の二人とはその経済的波及の規模は小さかったが、藤枝MYFCがバタナカの移籍後に開設したクメール語のFacebookページは、日本語版が3.3万「いいね」なのに対して6万「いいね」以上を獲得、またカンボジアリーグの放映パートナーであるBTVも藤枝MYFCの試合放映を開始するなどカンボジアのサッカーファンは藤枝MYFCの存在を認知した。このようにバタナカの移籍はサッカーの持つ興行的な側面の1つの重要な要素でありプレー以外の、オフザピッチの部分での話題作りをもっと工夫する事は出来なかったのかと言う部分でも疑問が残る。
 バタナカの来季の去就に関するアナウンスはまだされていないが、元々一年間のレンタル移籍の期限が迫る中で、満足な活躍が出来ていないとなると放出の可能性は大きい。不遇の時を過ごしているバタナカは何の為に移籍したのか。移籍に関係した全ての登場人物がそれぞれの胸にもう一度問いかけるべきだ。

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