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代表の苦戦と今後の日本サッカー アジアのトップリーグであり続けるために

JDFAがスバイリエンで交流イベントを開催

 11月17日、プノンペンのオリンピックスタジアムではW杯アジア二次予選カンボジア対日本の試合が行なわれ、約5万5000人の観客が熱戦を見守った。ゴール付近で引いて守るカンボジアの攻略に苦戦しつつも、日本が2-0で辛勝を収めた。この結果にカンボジア側関係者は大きな満足感に包まれたが、日本側に笑みは無く、重い雰囲気が漂った。
 試合から一夜明けた18日、スバイリエン州でサッカーイベントが行われた。”JDFA Town Visit in Svay Rieng”と銘打たれたこのイベントは、Jリーグアジアアンバサダーを務める木場昌雄氏(元 ガンバ大阪)が代表を務めるJDFA(Japan Dream Football Association)が企画し、サッカーの普及と振興を目的としている。スポンサーの森下仁丹株式会社の協力の下、使用されなくなったサッカーシューズが日本で集められ、スバイリエン州の農村部で暮らす80人の子ども達に贈られた。その後、同氏自らがピッチに立って指導に当たった。カンボジアのトップリーグ所属のスバイリエンFCからも全面的協力が得られ、会場のスバイリエンスタジアムにはオーナーをはじめ、監督や所属選手も登場した。初めて履くサッカーシューズに子ども達は少し緊張した表情を見せつつ、木場氏の指導に熱心に耳を傾けていた。

苦戦を強いられる日本代表 東南アジアの成長を脅威に感じるべき

 JDFAは「東南アジアからJリーガーを!!アジアからバロンドールを!!」をスローガンに掲げ、Jリーグとタイのトップリーグでプレー経験のある木場氏が中心となって東南アジアで育成年代の発展と選手のスカウティング等を行っている。カンボジアでの活動も4年前から始め、サッカークリニックを主にプノンペンで行ってきた。同氏が東南アジアに活動拠点を置く理由は、自らの経験の中で東南アジアの選手に可能性を感じ、アジアのトップリーグと言われるJリーグでプレーできる素質を持った選手が育っていると強く感じるからに他ならない。そして東南アジアの選手に、Jリーグを出発点として世界へ羽ばたいてほしいと強く願っているのだ。
 イベント終了後に、同氏は参加者の印象について「彼らはほとんどサッカーをした事がなかったが、基本的な体力や体のバランスといった点は全く問題なく、可能性を感じさせてくれた子どももいた。今後の成長の良いきっかけになってくれればと思う」と語り、カンボジアの特に地方部の子ども達の可能性の高さを感じたと言う。
 また、W杯アジア二次予選に入っての日本代表の苦戦についても伺った。同氏は以前より、東南アジアの成長は今後脅威になる存在だと訴えてきた。カンボジア対日本戦を振り返り、東南アジアの成長と日本側の認識のズレについても警鐘を鳴らした。「東南アジアの代表のようなトップレベルでは徐々に成長が見えている。しかし、育成年代の成長はまだ日本には見えていないし、脅威でもないと思っている。けれども東南アジアは今、大きな投資を行って育成年代こそが急成長している。そして個々のクラブレベルにおいても日本との差は確実に少なくなっており、脅威に感じるべきだ」そして同氏は日本・東南アジア両方の課題として「アジアで勝つためにはアジアでの経験を積む事が必要」と述べ、今後積極的な交流を行うべきだとしている。

東南アジアにとって日本が世界への登竜門になるために

 木場氏は更に、日本のサッカーのブランディングやマネジメントに関しても不安を示している。日本は経済的な優位性もあり、アジアではトップリーグの地位を維持し、多くの国際的な選手を排出している。しかし、今後はこの「アジアのトップリーグから世界へ」という構図が揺らぐかもしれないと言うのだ。東南アジアのチームが直接ヨーロッパ諸国と交流し始めた際に、日本よりヨーロッパを選ぶ可能性がある。実際、今回のイベントに協力したスバイリエンFCは、先日イングランド・プレミアリーグ所属のレスター・シティ・FCに招待され、選抜選手を約2週間遠征に送り出している。このような取り組みを独自で行う日本のクラブチームは、今のところない。
 またヨーロッパリーグは、アジアでのブランディング面で日本に比べて一歩も二歩も進んでいる。アジアをマーケットとしてきちんと認識して企業に門戸を広く開放したヨーロッパリーグには、多くのアジア企業がスポンサー活動を行っている。プレミアリーグを例に取れば、韓国のサムスン電子やタイのチャーン・ビール等とクラブチームの胸スポンサー契約を行い、アジア諸国でのチーム露出を増やす事で多くのファンを獲得している。カンボジアでもプレミアリーグを見て皆で騒ぎ、プノンペンで大流行中のフットサル場では誰もがヨーロッパリーグの所属クラブのユニフォームに袖を通している。極稀に日本代表のユニフォームを着る者を見かけるが、Jクラブのユニフォームを見た事がない。このように、ヨーロッパリーグとJリーグでは圧倒的な認知度の差があるのだ。一般的な経済交流や文化的な繋がり、人材交流は日本の方が盛んでありながら、サッカー関連の経済の交流、スポンサーの動きでは負けている。人材的な面でも、今後アジアの共通言語の英語化が進んだ場合、英語圏から指導者を要請した方が良いともなりかねない。ヨーロッパリーグ、そして各クラブチームが今後アジアに更なる価値を見出して本格的なアジア戦略を組んできた際に、日本はどのように対抗するのだろうか。
 日本代表チームが苦戦している東南アジアを活動の中心に定め、アジアの現状を見聞きして可能性を感じているからこそ、様々な面で警鐘を鳴らす木場氏。今こそ日本から少し離れた視点を持ち、日本のサッカーが今後どのように発展するべきか、アジアのリーダーであり続けるべきか考える時なのかもしれない。

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