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マイクロファイナンス、最低金利引き下げへ。

最低金利引き下げ決定と僻地への影響。

 カンボジアの経済成長を象徴する産業の一つに金融業界がある。新規参入の条件が以前と比べ難しくなってはいるが、毎年7%を超える経済成長率を誇るカンボジアにあって、金融業界は依然として海外からも有望な投資先と判断されている。近年では日本の大手銀行や各国の金融機関が既存の銀行に資本参画しその市場規模は拡大の一途をたどっている。また、銀行よりも身近な金融機関として国民に認知されるマイクロファイナンスやクレジットオペレーターの存在も年々大きくなっており、全国で100社以上の金融機関が営業を行っている。
 そんな金融業界、特にマイクロファイナンス業界にとって今後波紋を広げそうな改定が4月10日に行われた。それまで特に明記のなかった貸付時の利息の上限が18%に引き下げられたのだ。政府の主導で行われたと言われるこの改定は、突然の出来事でマイクロファイナンス協会へ事前の通知などはなくSNSで改定に関する情報が拡散後に知ったマイクロファイナンス事業者もあると言われている。当然事業者はこの改定に反対の意見を提出したが、その意見が議論されることはなく引き下げは決定された。引き下げに関して政府は、特に地方部の利用者は今後借り入れの負担が減り生活改善が図られるとともに、事業者側も利用が促進されることで総貸付金額が増加し利益に繋がる。双方にとって利益のあるものであると説明している。しかし、反対の意見を提出した通り政府と反する意見を持っている事業者も少なからず存在する。彼らが特に危惧しているのは、僻地で営業をしていたクレジットオペレーターへの影響だ。都市部の事業者と違い、事業規模が小さく、極めて少額の貸付を行ってきた事業者はその貸付金額の少なさに比例して高い利息を設定していた。と言うのも、貸付と返済にかかるコストが大きい彼らの営業形態では高い利息を設定することで商売を成り立たせてきた側面があり、利用者側も利息の高さは借り入れを行う上で半ばしかたがないことだと理解していた。そのため今回の改定に伴って、今後引き下げられた利息が僻地事業者の足かせとなり、営業活動そのものが停滞するおそれがある。そうなると借り入れを行いたいのに出来ない利用者が現れ、結果として僻地での経済活動が滞る可能性も出てくる。また、銀行よりもマイクロファナンスの利用が盛んに行われているカンボジアでは、近年銀行がマイクロファイナンスを買収し、特に地方部においてその知名度とネットワークを利用して事業拡大に繋げるという動きが加速しつつあった。このタイミングでの改定がこの動きに今後どのような影響をおよぼすのか注視する必要がある。

マイクロファイナンス=高利貸しではないカンボジア。

 しかし、プノンペンをはじめ都市部に人口が集中しているのもカンボジアの特徴であり、その都市部で営業をするマイクロファイナンスにとって今回の改定の影響はそこまで大きくはないという意見もある。そもそも、マイクロファイナンスとはカンボジアの人々にとってどのような存在であり、どのような感覚で借り入れを受けているのだろうか。事業者は次のように説明している。「マイクロファイナンスに対するネガティブなニュースも伝えられてはいますが、全体を通してみた場合、特に銀行と比較してマイクロファイナンス=高利貸しと言う印象を持つ事は、この国においては適切ではありません。マイクロファイナンスは所謂ノンバンクに感覚が近く、貸付にあたっては審査がありますし、担保も取ります。無担保高金利の融資では決してありません。確かに以前は融資条件が比較的簡単な事と引き換えに融資上限が数百ドルという機関も多くありました。しかし、今では審査と担保を引き換えに、自動車ローンや住宅ローン等の高額な融資を受けることが出来るようになっています。殆どの利用者はマイクロファイナンスと良い関係を構築していますし、利用者の環境に合った融資を提案しています。そのため、マイクロファイナンスと銀行を明確に線引している利用者が少ないのも特徴と言えます。」
 また、マイクロファイナンスに勤務する日本人は日本とカンボジアの比較を次のように説明している「単なる高利貸しではない事は、今回の改定で利息が下がったことや、貸し倒れ率の低さからも伺うことが出来ます。18%と言う数字だけを見れば高い利息かもしれませんが、日本の上限は20%です。日本とは違って、経済成長率が7%を超え賃金も右肩上がりに上がっている事を考えれば18%は決して高い利息ではありません。返すことの出来ない人にはそもそも貸すことはありませんし、その事は貸し倒れ率の低さにも現れています。利用者の借入状況はCBCで統括管理され、そこからの情報共有を通じて事前に多重債務を防ぐ事で、貸し倒れ率も2%に抑えられています。」

一定のモラルを持ち、今後も拡大が予想されるマイクロファイナンス業界。

 このように利用に当たって両者の利害は一致しており、マイクロファイナンスはカンボジアの人々にとってもっとも身近な金融機関として、今後も成長が見込まれている。そこには当然、今回の改定の様に政府の意向が反映される訳だが、政府は市場の拡大にともなって参入条件を厳しく改定し、一定のモラルを備えた質の高い新規参入事業者を求めている。僻地において少なからず影響が出ることが予想されているが、今や国民の殆どがスマートフォンを利用し、インターネット接続可能なカンボジアである。今後は電子送金・電子決済などの金融インフラ整備が急速に進むことも容易に予想でき、一時的な停滞を取り戻すことも可能だろう。今後も高い水準を維持しながら経済成長を続けたいカンボジアにとって、資本が常に消費の場に循環していることは何よりも大切な要素であり、マイクロファイナンスの持つ役割は大きい。

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