//ベトナム国境地域で領土問題が再燃

ベトナム国境地域で領土問題が再燃

野党勢力の活動が両国政府を刺激

 

最大野党救国党を率いるサム・レンシー党首は、以前より領土問題、取り分けベトナム国境問題には熱心すぎるほど活動してきた。それは時にフン・セン首相の怒りに触れ、一時は拘束を逃れるために国外に亡命していた。そんなサム・レンシー党首に感化されたのか、救国党議員と支持者が「スバイリエン州やラタナキリ州でベトナム人がカンボジアの土地を侵している」として、ベトナムとの国境地域で活動を活発化。同時に、現在カンボジア政府が使用している地図に書かれた国境線は誤りだと主張した。6月には頻繁に同地を視察し、28日には100人超の抗議者が国境線上で大規模な集会を開催。ベトナム側警備兵との間で小競り合いを起こし、10名の集会参加者が負傷した。サム・レンシー党首は、議会終了後の会見でこの一件について「国際社会に訴える」としてベトナム側の対応を非難した。

このような野党側の活発な活動を受けて与党人民党も対策を講じ、7月6日にはフン・セン首相が国連に対して、現在まで続く国境線としてシハヌーク殿下(当時)が提出した地図の写しを要請した。そして7日から3日間、両国政府の国境問題担当官がプノンペンで今後の対応について協議した。この際いくつかの具体的な対応策が合意に至ったが、救国党の不満を全ては解消できず、その後も散発的な活動は続いた。

 

混乱は無関係の農村開発活動等にも影響

 

国境地帯の不安定な状況は、領土問題とは無関係の農村開発活動等にも影響を及ぼしている。スバイリエン州の国境に面するタナオ地区で起きた、農協組織を支援するローカルNGOカエ(CAE)の代表を務めるブントゥーン氏の事件がその例だ。同氏が地域の子ども40人を連れて国境線より約50m内側を移動していたところ、ベトナム人の農家の集団が突然襲いかかって来たという。とっさに子ども達を逃がしたブントゥーン氏だったが、暴行を受けた後に到着したベトナム警察に拘束され、ベトナム側の省警察本部に連行された。その後の取り調べを受けて翌日にはカンボジア警察に身柄が引き渡されたが、解放にあたっていくつかの事実とは異なる条件に署名をさせられたという。その一つが暴行を受けたのは同氏がベトナム領内に200m侵入侵犯していた為だというもので、カンボジア政府でも同様の公式発表を出している。

非常に敏感な時期に発生した事件だけに、ブントゥーン氏解放後の両党の対応は全く正反対だった。野党救国党はベトナム側の蛮行を見逃すまいと気勢をあげ、党の宣伝のために同氏をまるで英雄のように扱った。一方の与党人民党は冷徹で、ベトナム側に侵入して拘束された迷惑な者とした。農村地域は与党人民党の支持基盤であり圧倒的に支持者が多い中で、この事態は活動に影響が出てしまう可能性がある。農村開発事業は、農家との信頼関係構築が活動の第一歩であり、ブントゥーン氏自身はこれまで特に政党色を出さずにあくまでも農家の生活向上を目的に活動を続けてきた。しかし、このような事態になった以上、今後の同氏の活動に悪影響が出るのではないかと懸念される。

 

首相による強権発動 そして政府地図に誤り無し

 

依然として野党救国党の領土問題抗議活動が続く8月13日、フン・セン首相は演説中に、国家の方針に背く発言と行動で国民を搖動したとして救国党のホン・ソクフオ議員を逮捕拘束するよう警察当局に指示したのだ。突然名指しされたホン・ソクフオ議員は議員宿舎に一時姿を隠したが、翌早朝に宿舎を取り囲んだ警察当局に自ら投降し、即日裁判所に送られた。直接の実行部隊ではなく党の執行部に比較的近いホン・ソクフオ議員が逮捕拘束された事に、驚きの声があがった。

そして18日、フン・セン首相が国連に依頼していた件の地図の写しがカンボジアに到着、首相府にて現在カンボジア政府が使用する地図との国境線の検証会が関係者と多くのメディアを招いて行なわれた。検証会はテレビで全国に生中継され、与党の主張する国境に問題がない事がアピールされた。しかし、この背景には1978年のベトナムによるカンボジア侵攻への根強い反感が基礎になっている。ベトナム政府は、カンボジア人の大量虐殺で知られているポルポト政府を追放し、その後、10年に渡り軍を駐留させた。これをベトナムによる侵略と捉える人々が多く、現カンボジア政権をベトナムの操り人形に例える人々も多い。また、カンボジアとベトナム国境はいまだに2割が未確定であり、国境問題は長期的に住民を苦しめている。

 

与野党間の駆け引きに利用される領土問題 国民は翻弄される一方か

 

領土問題と言えば当事国同士がやり合うのが常だが、カンボジアと特にベトナム間ではかなり状況が異なる。カンボジア政府は問題に否定的で、盛んに取り上げるのは野党のみだ。与党と政府はその成り立ちからしてベトナム政府を公に否定する事が難しく、自国内で隣国の治安当局に逮捕拘束された国民を切り捨て、領土問題は野党議員の逮捕劇にまで発展した。一方のベトナム政府は、この問題についてほとんど報道していない。いったい何のため、誰の利益のための問題なのか。「領土問題」という包みの奥は、ただの与野党間の争いではないだろうか。フン・セン首相は、次の国民議会議員選挙(総選挙)を2018年7月と発表している。あと3年、国民に対して実益を与えられるような事で与野党がやり合ってほしいものだ。

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