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男性主体の団体に「新しい風」として飛び込んだ

認定特定非営利活動法人 日本地雷処理を支援する会 Japan Mine Action Service カンボジア現地統括代表

 

– まずは渕上さんがJMASに入ったきっかけを教えていただけますか。

投資顧問で働いていた時、修士をとって国際機関に入りたいと考えていました。修士の研究内容が「カンボジアの地雷」で「日本政府・日本の企業・日本のNGOの3つのセクターからのアプローチ」だったんですよ。そのNGOの一つにJMASを研究材料として選びました。日中仕事をしながら(大学院社会人枠)だったので現場に出向くことが難しかったのですが、JMAS本部へのインタビュー後、バッタンバンの地雷処理現場に一人で出向きました。大学院卒業後、修士論文を持参しJMAS本部を訪ねた時に、事務局長(当時)から「JMASカンボジアで働くのはどうだい?」というお誘いがあったのがきっかけですね。それまでNGOで働いたことはなかったのですが、JMASが実行していたプロジェクトを論文で研究していたので、仕事を始めたときは「すんなり」と入ることができ、会議の議論もすぐに理解できました。ご縁があって、たまたま恵まれた環境で、全部が整っていたのだと思います。

– 大学院での研究は、JMASに入るためのものではなかったのですね。

全然。NGOで働くということを考えたこともなかったので。でも、実際は、研究したことが実践できている、という感じでした。

– 初の女性代表に選ばれたということに対して、渕上さん自身はどういうところを評価されたと思いますか。

難しい質問ですね。JMASが世界で行っているプロジェクト(パラオ、アンゴラ、ラオス、カンボジア)の中でもカンボジアは忙しい方だと言われています。パートナーを組んでいるCMACも含めると雇用人数も多いですしね。JMAS設立2002年からプロジェクトを実施しているのもカンボジア。JMASでは全てにおいてカンボジアは先駆者なので、初の女性代表となったんでしょうかね?確かに初の自衛隊出身でない初の女性の代表ですね。実は採用の際に「新しい風」として引っ張られたのが私だったんですよ。そういう意味ではJMASはどんどん変化してきているのだと思います。タイミングなのかもしれませんね…。

– たまたまという見方もありますけど、でも他の人が同じようにプロセスを踏んでもきっとできなかったと思います。正直、特にこういう組織において、どんなに実力があっても女性ってなかなか入っていけないじゃないですか。他の一般企業より難しいと思いますが、それは時代がそうさせていると思いますか。

時代じゃないですかね。

以前の体制環境から、民間出身で女性であっても正当に実力が認められる組織へと変化し始めたとも言えるでしょうね。かなりの大改革だと思います。

―今後必須となる「企業とのタイアップ」

– 地雷処理活動や誘致をする団体は少なくないですが、カンボジアにおいてJMASが必要とされる理由は何でしょう。

その一つとして、地雷撤去後の土地に例えば日本の企業さんが入るときに、「この土地は処理済みで安全ですよ」というベンチマークみたいなものを出せるか、という分野があると思います。CMAC(Cambodia Mine Action Centre)はJMASによる技術移転等もあり、国際的な処理レベルに達していると言えますが、日本企業は「安全」を特に重視しますので、何か事故があったら…と不安がよぎると踏み切れないところもあるのではないでしょうか?我々のような日本で地雷・不発弾処理に特化したNGOがお手伝いできることがあると思います。JMASカンボジアは日本政府からNGO無償連携資金を得て活動していますが、今後は企業さんの需要に対して、JMASがどのように応えることができるかを考えていくことも大切だと感じています。

 

 

– 地雷処理は最終的には人間によるチェックが不可欠ですし、日系企業にしてみればそういった安心感は非常に重要ですね。また、海外進出を視野に入れている企業への要望や、JMAS側の計画はありますか。

今私自身が考えているのは、民間企業との協働です。企業側は営利を追求しなくてはいけない。一方、今の世の中は「営利探求だけすればいい」という流れではない。利益を追求しつつ社会貢献も行うという風潮で、営利追求だけでないものを重視している気がします。そのような風潮が企業の社会的責任、CSRという形で出てきたんでしょうね。利益を追求しながら、CSRが企業ポリシーと連携していているか、どのように世界に貢献できるのでしょう。例えば、JMASがコマツさん(2008年からJMASを支援)と実施しているプロジェクトがあります。地雷処理後の跡地に学校建設やインフラ整備を行っています。JMASはコマツさんから「寄付」という形でご支援いただいていますが、コマツさんからするとCSRですよね。NGO、JMASの特性を活かし企業さんといかにマッチできるのかということですよね。

– コマツさんは地雷除去機による活動支援のみならず、その後の地域の発展まで見据えた活動をされているのですね。他の企業・団体でも学校を建てたりしていますが、正直言って少しアピールだけになっている部分がまだまだあるように思います。例えば勉強した生徒達はこれから先どうなっていくのかという部分は、なかなか見えにくいじゃないですか。

JMASはこれまでバッタンバン州の地雷原処理後の跡地に5件の学校(コマツ小学校)を建設しました。地元住民のリクエストに基づいた上で、先見の目を持ち「本当に必要かどうか」等を州の教育省を交え、コマツさんとも協議します。生徒数は何人でどの辺りにするのか、通う距離感等もシミュレーションしています。教育省にきちんと教師の数や生徒数を確認し精査することで「ハコモノ」で終わらせないように作っています。また、JMASの専門家が現場近くにいるので「あ、この子どもは今度からあの学校で勉強できるな」とわかりますし、学校の様子なども随時見に行っています。ちゃんと先生は来ているかということも見ていますよ。余談ですが、コマツ小学校の合同運動会を開催したりしましたよ。学校を作るだけでなく、運営されているかもJMAはチェックしていますね。もし必要なら村民とともに補修も可能ですしね。今年はコマツさんから寄付金をいただき、5つの小学校全部に図書館を作ったりもしましたよ。JMASのように「コンセプト重視のプロジェクト」を行っている組織は、あまりないと思います。

– 地雷処理に協賛するならここまで徹底して一緒にやる、逆にここまでやらないと生半可なことで終わってしまうということを、携わる企業・団体も知っておかなくてはいけないですね。メディア等もそこまで踏み込んで報じる必要があるでしょう。

―カンボジアに留まらない広い視野と他団体へのアプローチ

– これから先のJMASはどういう方向に行くのでしょうか。渕上さんが代表に就任してからの今後の方針についてお聞かせください。

JMASカンボジアはCMAC と共に地雷・不発弾の処理を行っています。これまでのJMASカンボジアは「外の世界」を見てこなかった気がします。関係者とさえやり取りしてればよいというか…。でも本来それではだめでしょう。今ではイギリスの地雷処理組織 (MAG、HALO)、アメリカの組織、国連地雷対策サービス、UNDP、国際赤十字などの団体とも仲良くさせていただいています。これまでは日本かカンボジアの情報しか入らなかったものが、例えばミャンマーは今こういう状態になっているよとか、こういうものが必要らしいよとか、情報がどんどん入ってくるようになりました。こういう大切な情報は今後活きていくものなんですよね、きっと。

– 「カンボジアのJMAS」という一つの団体ではなくなってきているようですね。

先日、地雷の国際セミナーがシェムリアップで開催されました。この分野の専門性を持った地雷・不発弾の処理団体、ASEAN10ヵ国の代表が集まり、JMASもスピーカーとして呼ばれました。今回のセミナーは日本政府が支援したものですが、そういう場に呼ばれるようになったのも、いろいろな海外NGOとの交流、カンボジア外務省などにJMASが発信し続けてきたからだと思います。実は今、ASEANサミットでカンボジアにASEAN地域地雷処理センターを作るという計画が進んでいます。簡単に言うとASEAN地域内の地雷・不発弾を減らし、負傷者を減らし、負傷者達の生活支援・教育支援をしていきましょうというような考え方ですね。これらはカンボジア政府からの提案でARMAC(ASEAN Regional Mine Action Centre)本部をプノンペンに置くというところまで決まっています。来年か再来年くらいにはできる計画で進んでいるようです。

– 先の民間企業とのタイアップの話もそうですが、今まで国内を向いて仕事をしていたものが、今は人事も含めてやっと外を向いて動き出したという感覚がありますね。

おそらく、これまでのJMASカンボジアのやり方では限界に達すると思います。一番重要なのは、地雷・不発弾がひとつでも多く処理されることですが、それは良くも悪くもJMASの仕事がなくなっていくということです。現在、カンボジアは目まぐるしいほど変化しているのでNGO支援はいらないよという時期がいつか来るでしょう。JMASカンボジアのスタンスは、ここで必要とされる限り精一杯取り組む。一方、世界の地雷・不発弾処理はカンボジアだけではありません。今後JMASの支援が必要とされる国のリサーチも必要ですよね。個人的な考えですが、JMASは自衛隊出身の特殊な技術を持った専門家がそろった団体です。ですので、普通の人が行けないような場所に行って安全に処理し「どうぞ」と言えるような稀な団体だと思っています。そう意味で考えるとカンボジアはもう出来上がっている国とも言えますね。私は政治学の修士を取得し国際協力を主に研究したので、援助に関して政治的・外交的に見てどうなのかという(例えば日本の対カンボジア援助方針)マクロ的に考える自分もいるし、現場レベルで客観的に物事を見るミクロ的な考えの自分もいます。また、現場で働いている地雷除去員(ディマイナー)さん達の生活がどうなのか等ミクロのミクロにも目がいってしまいます。あらゆる角度から全体を見据えながら、何が一番重要なのかという方向性を定めていくことが大切だろうと思っています。実際、ミクロ的な視野で考えるとカンボジアにはまだ地雷・不発弾処理の需要がたくさんあると思います。

―真の社会貢献を目指して 今後のNGOと支援の在り方

– NGOというカテゴリで見たら利益を追求しない、得てはいけない部分がやはりあって、「社会的貢献が一番」でいけばいいのかと思っていましたが、それだけでは生き残っていけない時代にもなっているとも言えます。

日本の感覚ではNGO=ボランティアのようによく言われますが、欧米では企業で働くよりもNGOで働く方がハードルが高い場合もあります。修士号や博士号を取得者が多く、専門分野を持っている人しか入れない狭き門とも言えます。

– プロフェッショナルの集まりなんですか。

地雷・不発弾処理に関しては特にそう思いますね。プロの団体みたいな感じです。一方、日本は「ボランティアでしょ」という固定概念があり、日本の感覚と欧米の感覚がずれている気がします。

– すごくずれていると思います。例えばNPOにしても、日本の場合はインチキな部分が先行してしまって、それだけ国の基準も甘かったですし。だからスタートでポジションをすごく下げてしまったと思うんですよね。そこから上がっていかなくてはいけないから、大変でしょう。

ARMACのセミナーや会議等で話していて「あぁ国際NGOの人だな、国際機関の人だな」と思うのは、会話をしていてとてもスマートで、論理的なだけでなく、現場の数を踏んでいるので現実的に話をする人が多いです。これは学歴だけでなく、いろんな所でいろんな人と話して、現場で過酷な経験も積んでいるので、それこそマクロもミクロもわかっている人がちゃんといる気がします。

– 世界はさすがにレベルが高いですね。

– 今回お話を伺って、初めての女性代表というのは大きなアピールポイントですが、これからの方向性として単純にNGOのJMASという団体だけの世界ではなくて、どういう形で企業との橋渡しの役目ができるか、という内面の転換期でもあることを感じました。

そうですね。あらゆる分野の方とお話をして自分なりにどう解釈しどのような戦略を立てていくのかが今後のJMASカンボジアの転換期となるのかも知れませんね。でもJMASカンボジアの代表として一番大切なことは「日々現場での処理を安全に無事に終えること」だと思っています。

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